グローバルエラーハンドリング
Status: Accepted
要約
エラーのハンドリングに関する基本方針を以下とします。
- ユーザ操作や外部通信時などのイベントで発生するエラーにおいて、アプリを運用する上で想定可能なエラーについては個別にエラーをハンドリングする
- 未処理のエラーが発生した場合は、React Native Firebase Crashlyticsを使用してクラッシュログをFirebase Crashlyticsに送信する
- 未処理のエラーが発生した場合は、アプリをクラッシュさせる
コンテキスト
モバイルアプリでは、エラーが発生した場合にエラーの内容と、どのような手順で操作をすればエラーから回復できるかをユーザに伝える事が大切です。また、アプリがクラッシュしてしまった場合は、どのような操作でアプリがクラッシュしたかを特定することも重要です。
ここでは、React Nativeを使用したモバイルアプリにおいて、エラーの発生箇所毎にどのようなハンドリングを実施するべきかを検討します。なお、エラーが発生した場合にログを送信するプロダクトとして、Firebase Crashlyticsを使用する前提1とします。Firebase Crashlyticsにログを送信するライブラリとしてはReact Native Firebase Crashlyticsを使用します。
議論
React Nativeを使用したモバイルアプリでは、発生したエラーをハンドリングしないとアプリがクラッシュします。 アプリのクラッシュは、ユーザのアプリ離脱率が高くなる一因になります。そのため基本方針として、エラーの発生する可能性がある箇所については個別にエラーを捕捉してエラーの内容と復旧手順を適切にユーザに伝えます。また、必要に応じてFirebase Crashlyticsにエラーログを送信します。
ただし、エラーのハンドリング漏れが発生する可能性はないとは断言できないため、捕捉されなかったエラーをグローバルにハンドリングする方法も検討します。
エラーの発生箇所とグローバルにハンドリングする方法
エラーが発生する箇所とそれぞれのエラーをグローバルにハンドリングする方法は以下になります。
エラー発生箇所 | エラーのハンドリング方法 |
---|---|
Reactコンポーネント - JSX | ・Error Boundary ・ErrorUtils |
Reactコンポーネント - 同期処理 | ・Error Boundary ・ErrorUtils |
Reactコンポーネント - Promise以外の非同期処理(※1) | ・ErrorUtils |
Reactコンポーネント - Promise | 個別にエラーのハンドリングが必要(※2) |
イベントハンドラ - 同期処理 | ・ErrorUtils |
イベントハンドラ - Promise以外の非同期処理(※1) | ・ErrorUtils |
イベントハンドラ - Promise | 個別にエラーのハンドリングが必要(※2) |
Native Modules - Android(Java) | ・Thread.UncaughtExceptionHandler |
Native Modules - iOS(Objective-C) | ・NSSetUncaughtExceptionHandler + シグナルハンドラ(※3) |
(※1)setTimeout
やrequestAnimationFrame
に渡すコールバック関数などが該当します。
(※2)Promiseで発生するエラーをハンドリングする方法としては、rejection-trackingを使用する方法があります。しかし十分な検証ができていない事や、rejection-trackingのドキュメントにおいて全てのエラーを捕捉することは開発時のみ使用することが推奨されているため、ここには載せていません。
(※3)NSSetUncaughtExceptionHandler
はNSExceptionを捕捉しますが、独自に作成したエラーオブジェクトなどは捕捉しません。NSSetUncaughtExceptionHandler
で捕捉できないエラーは、signalを使用してシグナルハンドラを登録します。
エラーを捕捉した後に、どのような処理を実施したいか
エラーを捕捉した後に、実施する想定の処理は以下になります。
- エラーログをFirebase Crashlyticsに送信
- アプリをクラッシュさせない
- エラーの内容をUIで表示
- アプリを再起動
アプリが動作するプラットフォームやエラーの発生箇所、エラーハンドリング方法によって実現可否が変わるため、まずはそれらを整理します。
以降の表で使用する凡例
凡例 | 概要 |
---|---|
◎ | 独自に追加実装しなくても実現可能 |
○ | 独自に追加実装することで実現可能 |
× | 実現不可、または実現する方法が見つかっていない |
Reactコンポーネント - JSXや同期処理で発生するエラー
処理 | Error Boundary | ErrorUtils | React Native Firebase Crashlytics(※1) |
---|---|---|---|
エラーログをFirebase Crashlyticsに送信 | ○ | ○ | ◎ |
アプリをクラッシュさせない | ○ | ○ | ○ |
エラーの内容をUIで表示 | ○ | ○(※2) | ○(※2) |
アプリを再起動 | ○(※3) | ○(※4) | ○(※4) |
(※1)React Native Firebase CrashlyticsはJavaScriptで発生したエラーのハンドリングにErrorUtilsを使用しています。ErrorUtilsはハンドリングしたい処理をハンドラとして登録できます。そのため、React Native Firebase Crashlytics以外にも別の処理を追加したい場合は、独自に作成したハンドラをErrorUtilsに登録することで実現できます。
(※2)ErrorUtilsで捕捉したエラーの内容をUIで表示するには、Native Modulesを呼び出してUIを表示する必要があります。
(※3)Reactコンポーネントツリーの最上位から再構築します。
(※4)JavaScriptのランタイムにバンドルされているモジュールをリロードするか、Androidの場合はActivityを再構築します。
Reactコンポーネント - Promise以外の非同期処理で発生するエラー
処理 | ErrorUtils | React Native Firebase Crashlytics(※1) |
---|---|---|
エラーログをFirebase Crashlyticsに送信 | ○ | ◎ |
アプリをクラッシュさせない | ○ | ○ |
エラーの内容をUIで表示 | ○(※2) | ○(※2) |
アプリを再起動 | ○(※3) | ○(※3) |
(※1)React Native Firebase CrashlyticsはJavaScriptで発生したエラーのハンドリングにErrorUtilsを使用しています。ErrorUtilsはハンドリングしたい処理をハンドラとして登録できます。そのため、React Native Firebase Crashlytics以外にも別の処理を追加したい場合は、独自に作成したハンドラをErrorUtilsに登録することで実現できます。
(※2)ErrorUtilsで捕捉したエラーの内容をUIで表示するには、Native Modulesを呼び出してUIを表示する必要があります。
(※3)JavaScriptのランタイムにバンドルされているモジュールをリロードするか、Androidの場合はActivityを再構築します。
イベントハンドラ - 同期処理やPromise以外の非同期処理で発生するエラー
処理 | ErrorUtils | React Native Firebase Crashlytics(※1) |
---|---|---|
エラーログをFirebase Crashlyticsに送信 | ○ | ◎ |
アプリをクラッシュさせない | ○ | ○ |
エラーの内容をUIで表示 | ○(※2) | ○(※2) |
アプリを再起動 | ○(※3) | ○(※3) |
(※1)React Native Firebase CrashlyticsはJavaScriptで発生したエラーのハンドリングにErrorUtilsを使用しています。ErrorUtilsはハンドリングしたい処理をハンドラとして登録できます。そのため、React Native Firebase Crashlytics以外にも別の処理を追加したい場合は、独自に作成したハンドラをErrorUtilsに登録することで実現できます。
(※2)ErrorUtilsで捕捉したエラーの内容をUIで表示するには、Native Modulesを呼び出してUIを表示する必要があります。
(※3)JavaScriptのランタイムにバンドルされているモジュールをリロードするか、Androidの場合はActivityを再構築します。
Native Modules - Android(Java)
処理 | Thread.UncaughtExceptionHandler | React Native Firebase Crashlytics(※1) |
---|---|---|
エラーログをFirebase Crashlyticsに送信 | ○ | ◎ |
アプリをクラッシュさせない | ○ | × |
エラーの内容をUIで表示 | ○ | × |
アプリを再起動 | ○(※2) | × |
(※1)React Native Firebase Crashlyticsは、Native ModulesのエラーハンドリングにFirebase Crashlytics SDKを使用しています。
(※2)Activityを再構築します。
Native Modules - iOS(Objective-C)
処理 | NSSetUncaughtExceptionHandler + シグナルハンドラ | React Native Firebase Crashlytics(※1) |
---|---|---|
エラーログをFirebase Crashlyticsに送信 | ○ | ◎ |
アプリをクラッシュさせない | ○ | × |
エラーの内容をUIで表示 | ○ | × |
アプリを再起動 | × | × |
(※1)React Native Firebase Crashlyticsは、Native ModulesのエラーハンドリングにFirebase Crashlytics SDKを使用しています。
エラーを捕捉した後に実施する処理の再検討
これまでの議論の中で、エラーを捕捉した後に実施する処理として、「アプリをクラッシュさせない」を含めていました。アプリがクラッシュすると、ユーザの離脱率が高くなる一因になるためです。しかし調査を進める中で、「アプリをクラッシュさせない」仕様が最善なのかという疑問が湧いてきました。理由としては以下になります。
- ネイティブ言語のみを使用して構築されたアプリや、React Native、React Native Firebase Crashlyticsを使用して構築されたアプリでは、エラーが発生した場合のデフォルトの動作はアプリがクラッシュする
- アプリのクラッシュを防止しても、「予期しないエラーが発生しました。アプリを再起動してください。」のようなUIを表示してアプリの再起動を促すことしかできない(ユーザの操作としては、アプリがクラッシュした場合とほとんど同等の操作となる)
- iOSにおいて、signalを受け取ってエラーをハンドリングする方法が適切なのかをAppleのドキュメントからは読み取れない
そのため、エラーを捕捉した後に実施する処理から、「アプリをクラッシュさせない」を削除する方針としました。アプリがクラッシュするため、「エラーの内容をUIで表示」、「アプリを再起動」は実現できなくなります。よって、エラーを捕捉した後の処理としては、「エラーログをFirebase Crashlyticsに送信」のみとなります。
その場合、これまでの調査から独自に追加実装をする必要がないReact Native Firebase Crashlyticsを使用することが最善と判断できます。よって、グローバルにエラーをハンドリングする方法としてはReact Native Firebase Crashlyticsを採用する方針とします。
React Native Firebase Crashlyticsを使用したJavaScriptのエラーハンドリング
React Native Firebase Crashlyticsは、JavaScriptで発生したエラーのハンドリングにデフォルトでErrorUtilsを使用しています。ただし、React Native Firebase Crashlyticsのドキュメントに記載されているように、ErrorUtilsによるハンドリングを無効化できます。その場合は、Firebase Crashlytics SDKによってエラーがハンドリングされます。
ErrorUtilsを使用したハンドリングの場合、React Native Firebase Crashlyticsが独自にスタックトレースを作成してFirebase Crashlyticsにログを送信します。しかし、送信されたJavaScriptのスタックトレースは以下のように難読化されており、ソースコードとマッピングしないとエラーの発生箇所を特定できません。
Fatal Exception: JavaScriptError
Error has occurred in synchronous process of EventHandler.
0 ??? 0x0 <unknown> + 857 (main.jsbundle:857:885:857)
1 ??? 0x0 <unknown> + 679 (main.jsbundle:679:2462:679)
2 ??? 0x0 value + 231 (main.jsbundle:231:8209:231)
3 ??? 0x0 value + 231 (main.jsbundle:231:7465:231)
/* ~省略~ */
上記のスタックトレースとソースコードをマッピングするには工夫が必要であり時間もかかります。その反面、Firebase Crashlyticsのコンソール上ではエラーの発生箇所毎にログがカテゴライズされ非常に見やすいといった良い点もあります。
一方、JavaScriptで発生したエラーのハンドリングにFirebase Crashlytics SDKを使用した場合、Firebase Crashlyticsに送信されたスタックトレースは以下のように難読化されています。
Fatal Exception: RCTFatalException: Unhandled JS Exception:
Error: Error has occurred in synchronous process of EventHandler.
Unhandled JS Exception: Error: Error has occurred in synchronous process of EventHandler., stack:
<unknown>@857:884
<unknown>@679:2461
value@231:8208
value@231:7464
/* ~省略~ */
上記のスタックトレースは、React Nativeが提供しているmetro-symbolicate
を使用することで、容易にスタックトレースとソースコードのマッピングを行うことができます。その反面、Firebase Crashlyticsのコンソール上ではエラーの発生箇所毎にログがカテゴライズされず、視認性の面では劣ります。
ここまでの内容を簡単にまとめます。
比較内容 | React Native Firebase Crashlytics(ErrorUtils)によるハンドリング | Firebase Crashlytics SDKによるハンドリング |
---|---|---|
Firebase Crashlyticsのコンソール上におけるエラーの発生箇所の視認性 | ○ | × |
スタックトレースとソースコードのマッピングの容易さ | × | ○ |
SantokuAppでは、スタックトレースとソースコードのマッピングの容易さを重視して、Firebase Crashlytics SDKを使用してエラーをハンドリングする方法を採用します。
決定
- 基本方針として、エラーの発生する可能性がある箇所については個別にエラーをハンドリングする
- ユーザにエラーの内容と復旧手順を伝える
- 必要に応じてFirebase Crashlyticsにエラーログを送信する
- 未処理のエラーが発生した場合は、React Native Firebase Crashlyticsを使用してエラーをハンドリングする
- アプリをクラッシュさせる
- Firebase Crashlyticsにクラッシュログを送信する